オートマティスム 習作
レシートの裏や画用紙、手近にあった紙片を支持体に、丸ペンと墨汁を用いて描かれている。ここでは設計された形ではなく、より偶発的に即興的に描くことをテーマとした。着想のきっかけとなったのは、大学の講義で紹介された、ヴォルスという画家に出会ったことだった。ヴォルスは20世紀の前半から半ばにかけて生き、自らの体を破滅に追い込みながらも浮かんでくるイメージを紙に写しとることに生涯を捧げた画家である。ヴォルスが持っていたこの世界を見る眼差しと思想、一切の芸術運動に参加せず、人知れず独自の芸術を生み出してゆく孤独な態度、そして、人間の外から人間世界を見つめたような初期のオートマティスムの水彩から、生命の原風景をそのまま抉り出したような絵画までの一連の作品群に魅了され、沸き立つイメージを紙に写しとることだけに注力する方法で造形表現を試みようとした。
偶然手が引いた線がイメージを誘発し、そこで描かれた形がまたイメージの連想を生んでいくことで、植物の断面、カフェインを摂取した蜘蛛の作る破綻した蜘蛛の巣、顕微鏡でのぞいた微生物、あるいは人体の一部のような形が入り混じる小さな生態環境のような絵が生まれていった。
←